かなり前だが、日本ではもちろん世界でも名だたる自動車メーカーの研究所で研修した。内容は、社内コミュニケーション活性や部下のやる気創出の取り組み方だった。
受講者5人は入社20年ほどで自らもクルマを開発しつつ、同時に部下を20名ほど持つエンジニア兼マネージャー。
彼らの話しでは、自分たちが入社した頃は、自由な雰囲気に溢れ、上下の関係なくワイワイガヤガヤと議論しながら仕事ができて楽しかったのに、今では1万人を超える大企業になり、求められるのはまず部下の管理。報告書の提出、部下と面談や評価、そして多くの会議と、仕事のほとんどが管理業務で、入社した頃の“わくわく感”が薄れた。
しかも若手社員はさらに深刻でお行儀が良すぎてつまらない…、これでわが社は大丈夫なのかと危機感を持っていた。
最寄り駅から車で30分、ほぼ全員が行きも帰りも車通勤(当然、全員が自社の車)で、1日中研究所で仕事し、仲間と一杯もままならない(私の勝手な妄想だが)。
休憩時間に、「エンジニアの皆さんは、たまには販売店に行って、来店したお客様を観察したり、話しを聞いたりしないのですか」と聞いたが、そんな制度はないと(制度か)。クルマを買いに来たお客様を観察し、話しを聞くことは、ワクワクするクルマを開発する際の大きなヒントだと思うのだけど。せめて若手エンジニアは、1年の内1か月くらいは販売店で研修したらいいのに。
お客様は販売店に出向き、クルマを見て、試乗し、これから始まる素敵なカーライフをイメージするものだ。そこは“お客様とクルマとの出会いの場”であり、ワクワクの始まりであり、交わされる会話が開発者にとっても貴重な情報のはずだ。
企業は成長すれば規模も拡大し、人が増えれば管理業務も増えるのもよくわかる。だけど、規模の拡大と引き換えに、革新的な心が失われると、お客様が喜びワクワクする製品づくりは、どこかに置いてきぼりになってしまうものなのか。
管理は人を委縮させるものではなく、革新の心を維持・強化するものではないのか。
革新をなくす管理なんて要らない。
せめて、お客様を喜ばせる心だけは忘れたくない…と思ったことを思い出した。
もっとも当社は零細企業だった(笑)。