高知市の土佐料理店「司」に、会津若松の元高校校長・坂田哲三さんから手紙が届きました。
坂田さんは定年退職後、苦楽をともにした妻の凱子さんとの旅行を楽しみにしていましたが1997年12月、奥さんがガンで亡くなります。悲しみから立ち直った坂田さんは、妻の冥福を祈るために、1999年から四国八十八ヶ所の札所巡りを始め、2000年も讃岐から土佐を回りました。
その帰り、高知空港にある土佐料理「司」に入り、ビールを1本と土佐名物のかますの姿寿司を注文し、「あ、グラスを2つ」と付け加えました。
注文を受けたのは入社2年目の近藤ミカさん。お客様が1人なのにグラスが2つとはと不思議に思いながらも、ビール1本とグラス2つを運んだのです。
気になったミカさんがお客さんを見ると、坂田さんは女性の写真をテーブルに置きその前のグラスにビールを注ぎ乾杯したのです。
きっと亡くなった奥さんの写真と共に札所巡りをしてきたのだと思い、姿寿司を運ぶ時、きっと奥さんと一緒に食べたいに違いないと、お箸と箸置きを2組、小皿を2枚持っていったのでした。
坂田さんの手紙はこう続きます。「旅行には必ず家内の写真を持って行き一緒にビールを飲むのです。しかし、お箸と小皿を出してくれたお店はおたくが初めてです。驚きと感動で身体が震えました。感激で帰りの飛行機の中でも涙が止まりませんでした」。
これは私の体験ではなく、:「あなたが創る顧客満足」佐藤知恭(日経ビジネス人文庫)で読んだ実話だ。そして続きがある。
この話が頭から離れず、出張で高知を訪ねた際、「司」の高知空港店に2度行った。1度目は連れ(お客様)もいたし声をかけられなかったが、数年後の2度目は独りだったので勇気を振り絞って「近藤ミカさんはいらっしゃいますか」と尋ねた。
出できた店長に本で読み感動したことを話し、もしまだ勤務しているのならお会いしたいと伝えた。店長は「近藤ミカさんは、結婚後も勤めていたが、お子さんができたため最近退職しました。坂田哲三さんからの手紙は全員が知っていて、誇りです」とのこと。
あぁ1度目に訪ねた時に声をかけていれば会えたかもしれない。
もっと早く勇気を出していればと、ずっと悔やんでいる。